「お気に入りのスニーカーを自分だけのデザインにカスタムしたい」「黄ばんでしまったソールを白く塗って復活させたい」、あるいは「誤ってスニーカーに油性ペンがついてしまったから落とし方を知りたい」。今このページをご覧のあなたは、スニーカーと油性ペンに関する何らかの悩みや目的をお持ちではないでしょうか。
実は「スニーカーを油性ペンで塗る」といっても、その目的がデザインなどのカスタムなのか、汚れを隠す補修なのかによって、選ぶべきペンの種類や正しい手順は全く異なります。手軽なマッキーが適している場合もあれば、ポスカを使ってはいけないケース、あるいはにじまないための特別な下準備が必要なこともあります。大切なスニーカーを台無しにしないためにも、正しい知識を持って作業することが成功への近道です。
この記事を読むことで、以下の点について理解を深めることができます。
- カスタムや補修など目的に合わせた最適な油性ペンの選び方
- マッキーやポスカを使う際のメリットと致命的な注意点
- 布やゴムなど素材別に失敗しない塗り方とにじみ防止策
- 万が一失敗した時やインクがついた時の正しい除去手順
スニーカーを油性ペンで塗る方法と最適な種類の選び方
まずは、あなたの目的が「自分だけのデザインを描くカスタム」なのか、それとも「汚れや傷を隠す補修」なのかをはっきりさせましょう。実はこの目的の違いだけで、選ぶべきペンは180度変わります。ここでは、スニーカーの素材や目的に合わせた最適なペンの選び方と、それぞれの特性について詳しく解説していきます。
マッキーや100均ペンでのカスタムは可能か
結論から言うと、スニーカーのカスタムにマッキーなどの一般的な油性ペンを使用することは可能です。特に、キャンバス(布)やスエード、革、ゴムのソール部分など、素材を選ばずに描ける点は大きな魅力ですよね。
私自身もいろいろ試しましたが、推奨できるのはゼブラの「マッキー」のような有名メーカー製の油性ペンです。これらは「油性染料」というインクを使っていて、素材の繊維に染み込むことで定着するため、水濡れや摩擦に対して比較的強いという特徴があります。上履きの名前書きなどで経験がある通り、一度乾けば水洗いしても簡単には落ちません。
100均のペンとメーカー品の違い
ここで気になるのが「100均のペンでも大丈夫か?」という点です。ダイソーなどで売られているものでも、「マッキー」や「ペイントマーカー」といったブランド品や指名買いされる製品であれば、品質が安定していておすすめです。
注意すべきはノーブランド品 一方で、5本入り100円のようなノーブランドの安価な油性ペンは避けた方が無難です。インクの定着が悪かったり、黒色が薄くてグレーっぽかったり、すぐに色落ちしたりするリスクがあるためです。せっかくの手間が無駄にならないよう、信頼できるペンを選びましょう。
ただし、マッキーのような染料インクにも弱点があります。それは「日光(紫外線)に弱い」ということです。室内で保管している分には問題ありませんが、外で履き続けると半年〜1年程度で色が薄くなってくる(退色する)ことがあります。「手軽にカスタムを楽しみたい」という入門編としては最適ですが、プロのような半永久的な耐久性を求める場合は後述する専用塗料の方が向いています。
スニーカーにポスカはNG?失敗する理由

ポップな発色と描きやすさでDIYの定番アイテムとなっている「ポスカ(POSCA)」ですが、スニーカーの実用的なカスタムに使用するのは避けるべきです。SNSなどでポスカを使ったカスタム例を見かけることがありますが、あれはあくまで「撮影用」や「観賞用」と割り切ったものであるケースがほとんどです。
なぜスニーカーにポスカを使ってはいけないのか、その理由はインクの成分と耐久性のミスマッチにあります。
1. 「水性顔料」の致命的な弱点
ポスカのインクは「水性顔料」です。メーカーの説明書には「乾くと耐水性になる」と書かれていますが、これはあくまで画用紙やコルクボードといった「動かない素材」に描いた場合の話です。
スニーカーは歩くたびに屈曲し、地面と擦れ、時には雨に打たれます。ポスカのインクに含まれる定着剤(バインダー)は水性ベースで弱いため、スニーカーのような過酷な環境には耐えられません。具体的には以下のようなトラブルが必ずと言っていいほど発生します。
- 水溶け・色泣き: 雨に濡れると、耐水性があるはずのインクがふやけて再溶解し、ドロドロに滲んで周囲を汚します。
- ひび割れ(クラック): インクの塗膜が硬いため、歩行時の「屈曲」に追従できず、履きジワの部分からパリパリと割れて剥がれ落ちます。
- 定着不良: 特にレザーやゴム素材の上では、爪で軽く擦っただけでボロボロと取れてしまうことがあります。
ここが最大の失敗ポイント 最も悲惨なのが「雨の日」です。ポスカで描いたスニーカーで出かけ、突然の雨に降られると、インクが溶け出して靴全体、さらには靴下やパンツの裾までカラフルな泥水のようになって汚してしまいます。一度こうなると、繊維の奥に入り込んで修復不可能になることが多いです。
2. ポスカとスニーカー専用マーカーの違い
「でも、ポスカのようなマットで鮮やかな色で塗りたい」という方もいるでしょう。その場合は、ポスカではなく「スニーカー用のアクリルマーカー」を選んでください。見た目は似ていますが、中身は別物です。
| 特徴 | ポスカ(事務用) | アクリルマーカー(カスタム用) |
|---|---|---|
| インク種類 | 水性顔料(水性樹脂) | アクリル顔料(アクリル樹脂) |
| 耐水性 | 弱い(水濡れで溶けるリスク大) | 強い(完全乾燥後は耐水化) |
| 柔軟性 | 無し(硬くて割れやすい) | 有り(ゴムのように曲がる) |
| 用途 | 紙、金属、ガラス(静止物) | 布、革、ゴム(可動物) |
表を見てわかる通り、スニーカー用マーカーは「動き」や「水」に耐えられるように特別な樹脂が配合されています。「手持ちのポスカがあるから」という理由だけで代用してしまうと、大切なスニーカーを台無しにしてしまう可能性が高いため、用途に合ったペンを選ぶことが成功への第一歩です。
白スニーカーの黄ばみ補修に使えるペン
「お気に入りのスニーカーのソールが黄ばんでしまったから、白いマッキーで塗りつぶして隠したい」。このような相談を非常によく受けますが、結論から申し上げますと、マッキーなどの一般的な油性ペン(染料インク)では、黄ばみや黒ずみを隠すことはできません。
なぜなら、マッキーのインクは「透明なセロハン」のような性質(透過性)を持っているからです。黄色い画用紙に白いマジックで描いても、下の黄色が透けて見えてしまいますよね? それと同じで、黄ばんだソールの上から白いマッキーを何度重ね塗りしても、下の黄ばみは透け続けてしまい、決して真っ白にはなりません。
必要なのは「染める」ではなく「隠す」ペン

黄ばみや頑固な汚れをなかったことにするためには、下地を完全に覆い隠す「高い隠蔽力(カバー力)」を持ったペンが必要です。これを可能にするのが、インクの中に「顔料(粉末状の色材)」を含んだタイプのマーカーです。
もっとも推奨できるのが、コロンブスなどのシューケア用品メーカーから販売されている「スニーカー用補修ペン(ホワイトマーカー)」です。
- 成分: 油性顔料(ペンキや修正液に近い成分)
- 効果: 表面に白い塗膜を作り、下の汚れを物理的に「覆い隠す」
- 適正: レザーのアッパーやゴムのソール
これらは文房具のペンとは異なり、スニーカーの補修専用に開発されているため、ゴムや革への定着が良く、自然なマット感が出るように調整されています。
自然に仕上げるための「ちょいテク」
補修ペンを使う際のコツは、「塗る」というよりも「乗せる」感覚で使うことです。ただし、修正液のように液体がドバっと出ると、そこだけ不自然に盛り上がったり、テカテカしたりして「塗りました感」が出てしまいます。
これを防ぐには、ペン先から直接塗るのではなく、一度いらない紙や小皿にインクを出し、筆や綿棒にとって少しずつポンポンと叩くように馴染ませるのがプロっぽい仕上がりの秘訣です。特に傷の補修など、ピンポイントで直したい時に有効なテクニックです。
【重要】目的別・ペンの使い分けルール
- 色をつけたい(カスタム) ➔ マッキー(油性染料) 素材に染み込む。透明感がある。
- 色を隠したい(補修) ➔ 補修用マーカー(油性顔料) 素材の上に乗る。不透明で隠蔽力が高い。
布製スニーカーでインクがにじむ対策

コンバースのオールスターやVANSのスリッポンなど、キャンバス(布)素材のスニーカーをカスタムする際に、最も恐ろしく、そして最も起こりやすい失敗が「にじみ(毛細管現象)」です。
マッキーなどの一般的な油性ペンのインクは、サラサラとした液体(低粘度)です。そのため、ペン先を布に置いた瞬間、布の繊維がストローのようにインクを吸い上げてしまい、意図したラインよりもジワッと太く広がったり、隣り合った色が混ざって汚くなってしまったりします。一度にじんでしまうと修正はほぼ不可能なため、事前の対策が命綱となります。
1. 最も確実なのは「布用マーカー」に変えること
「どうしてもマッキーでなければならない理由」がない限り、私は強く「布用マーカー」の使用をおすすめします。
手芸店や100均でも手に入る「マイネーム(サクラクレパス)」や「布書きペン」などは、インクの粘度が高くドロッとしているため、繊維に染み込みすぎず、表面に留まるように設計されています。これを使うだけで、にじみのリスクは劇的に下がります。
2. マッキーを使う場合の「下地コーティング」テクニック
もし手元にあるマッキーを使いたい場合は、インクが繊維に吸われるのを防ぐための「下地作り」が効果的です。布の表面をコーティングして、一時的に紙のような状態に近づけるイメージです。
【裏技】防水スプレーでバリアを作る 描く前の真っ白なキャンバス地に、防水スプレーを軽く吹きかけて完全に乾燥させてください。スプレーの成分が繊維の一本一本をコーティングし、インクが必要以上に広がるのを防ぐ防波堤の役割を果たしてくれます。
※ただし、かけすぎるとインク自体を弾いてしまうことがあるため、「薄くかけて乾かす」のがコツです。必ず目立たない場所(ベロの端など)でテストしてから本番に挑んでください。
3. 失敗しないための「運筆(ペンの動かし方)」
道具の準備ができたら、実際の描き方にもひと工夫加えましょう。
- 「置く」のではなく「払う」: ペン先を一点に留めると、そこからどんどんインクが広がります。筆を払うように、サッ、サッと素早く動かして線を描きます。
- 薄く重ねる: 一度で濃い黒を出そうとすると、インク量が多すぎて必ずにじみます。「薄いグレーを重ねて黒にする」くらいの気持ちで、乾かしながら塗り重ねてください。
- ドライヤーとの併用: 描いた直後にドライヤーの温風を当てると、インクが広がる前に溶剤が揮発して定着するため、にじみを最小限に抑えられます。
ゴムのソール部分を綺麗に塗るコツ
スニーカーの白いミッドソールを黒く塗りつぶして「引き締まった印象」に変えたり、側面にラインを入れてアクセントを加えたりするカスタムは非常に人気があります。この用途には、素材を選ばない「マッキー」や、発色の良い「ペイントマーカー(油性)」が適しています。
しかし、ゴム素材は表面が滑らかでインクを弾きやすく、普通に塗ると色ムラになったり、数回履いただけでパリパリと剥がれてしまったりと、実は難易度の高い箇所でもあります。プロのような仕上がりに近づけるためには、塗る前の準備と塗り方にコツが必要です。
1. 命運を分ける「脱脂(だっし)」作業
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ソールを塗る上で最も重要な工程、それが「脱脂」です。これをサボると、どんなに高級なペンを使ってもインクは定着しません。
新品のスニーカーには製造時に型から抜きやすくするための「離型剤(オイル)」が、履き込んだスニーカーには日常の「油汚れ」が、目に見えない膜として付着しています。作業前には必ず、アセトン入りの除光液や無水エタノールを含ませたコットンで、ソール全体をゴシゴシと拭き上げてください。表面のツヤが少し消え、キュッキュッとした手触りになれば準備完了です。
2. ムラなく塗るための「一方向塗り」
広い面(サイドソール全体など)を塗る時は、マッキーの「極太」などの太いペン先を使いますが、この時のペンの動かし方が重要です。
やりがちなのが、塗り絵のようにペン先を「往復(ジグザグ)」させてしまうこと。これだと、一度塗ったインクが乾く前にペン先で擦り取ってしまい、汚いスジやムラになってしまいます。必ず「左から右へ、一方向」にペンを動かし、一度塗ったら触らずに乾かすのが鉄則です。
3. 重ね塗りで「黒」を深くする
一度塗りでは、どうしても下の色が透けたり、筆跡が残ったりします。焦らずに、完全に乾いてから二度、三度と重ね塗りをしてください。
特にマッキー(染料)の場合、重ねるごとに色が深くなり、漆黒に近づいていきます。ペイントマーカー(顔料)の場合は、厚塗りしすぎると割れやすくなるため、「薄く、均一に」重ねることを意識しましょう。
剥がれることは前提に考える どれだけ丁寧に下処理をしても、ソールは常に地面と擦れ、体重で歪む場所です。歩けば必ずどこかが擦れたり剥げたりします。しかし、ペンで塗るメリットは「剥げたらまたペンで塗ればいい(リタッチが簡単)」という点にあります。あまり神経質になりすぎず、気軽にメンテナンスを楽しむのがソールカスタムの秘訣です。
スニーカーを油性ペンで塗る際の失敗対策と除去方法
「カスタムに挑戦したけど線が歪んでしまった」「子供がスニーカーに落書きをしてしまった」。そんなトラブルも、正しい対処法を知っていれば被害を最小限に抑えることができます。ここでは、ついてしまった油性ペンの安全な落とし方を解説します。
油性ペンがついた時の素材別落とし方
油性ペンのインクを落とすには、インクを溶かす「溶剤」か、物理的に削り落とす「研磨」が必要です。しかし、スニーカーの素材によっては、汚れと一緒にスニーカーの色まで落としてしまう危険があります。まずは以下の表で、素材ごとの推奨除去方法を確認してください。
| 素材 | 推奨される落とし方 | 注意点 |
|---|---|---|
| キャンバス(布) | 消毒用エタノール、除光液 | 擦ると汚れが広がるため、叩き出しが必須。 |
| レザー・合皮 | 消しゴム、エタノール(要テスト) | 溶剤で革の塗装が剥げるリスク大。まずは消しゴムから。 |
| ゴムソール | メラミンスポンジ、除光液 | メラミンスポンジで削るのが有効。強く擦りすぎないこと。 |
除光液やエタノールを使った除去手順
特に布製スニーカーの場合、焦ってティッシュでゴシゴシと擦るのは絶対にNGです。インクが繊維の奥に入り込んだり、周りに広がったりして状況が悪化します。正しい手順は、クリーニングの「染み抜き」と同じ原理で行います。
布製スニーカーのインク落とし手順

- インクがついた部分の裏側に、汚れてもいいタオルをあてがう。
- 表側から、無水エタノールや除光液(プロピレングリコール類含有のもの)をつけた古歯ブラシでトントンと叩く。
- 溶けたインクを、裏側のタオルに移し取るイメージで叩き続ける。タオルはずらして常に綺麗な面を使う。
- インクが薄くなったら、最後に中性洗剤で部分洗いをして、よくすすぐ。
革製品の場合は、いきなり溶剤を使わず、まずはプラスチック消しゴムで優しく擦ってみてください。表面に乗っているだけのインクなら、これで落ちることがあります。それでもダメな場合は、目立たない場所で色落ちテストをしてから、エタノールを少量使って優しく拭き取ります。
色落ちを防ぐための仕上げと乾燥時間
ペイントが終わった直後のスニーカーは、世界に一つだけの宝物に見えますよね。すぐに履いて出かけたい気持ちは痛いほどわかりますが、ちょっと待ってください。ペイントの寿命とクオリティを決めるのは、実はこの後の「仕上げ」と「待機時間」にかかっています。
ただ放置しておくだけではなく、プロも実践している「熱定着」のテクニックを加えることで、インクの色落ちや剥がれを劇的に防ぐことができます。
1. 「乾燥」には2つの段階がある
インクの乾燥には、「表面乾燥(指で触ってもつかない)」と「完全硬化(内部まで固まる)」の2段階があります。
マッキーなどの油性ペンは揮発性が高いため、塗って数分で手にはつかなくなります。しかし、これはまだ表面の溶剤が飛んだだけで、インクの成分(染料や樹脂)は素材の上で不安定な状態です。この「生乾き」の状態で履いて屈曲させたり、摩擦が加わったりすると、簡単にインクが剥がれ落ちたり、大切な靴下やパンツの裾に色が移ったりしてしまいます。
2. 熱で定着させる「ヒートセット」の裏技
特にキャンバス(布)素材のカスタムにおいて、耐久性を高めるために有効なのが「熱を加えること(ヒートセット)」です。
- キャンバス地の場合: 乾燥後に「当て布(クッキングシートや手ぬぐい)」をして、その上からアイロンを中温でかけてください。熱を加えることでインクの樹脂成分が繊維により強く結合し、水濡れや摩擦への耐性が格段にアップします。
- 革・ゴム素材の場合: アイロンは使えないため、ドライヤーの温風を利用します。近づけすぎないように注意しながら、全体に温風を当てて乾燥を促進させます。ゴムは熱に弱いので、遠目からゆっくり温めるのがコツです。
3. 我慢の時間は「最低24時間」
仕上げ作業が終わったら、風通しの良い日陰でじっくりと休ませましょう。
推奨される乾燥時間は、最低でも24時間、できれば48時間です。「丸2日は触らない」と決めておくのが無難です。十分に時間を置くことで、インクが素材に完全に馴染み、本来の耐久性を発揮できるようになります。
履く前の最終チェック「ティッシュテスト」 乾燥期間を終えて初めて履く前に、白いティッシュでペイント部分を軽くトントンと押さえてみてください。もしティッシュに色がつくようなら、まだ乾燥不足か、インクが厚塗りされすぎて余剰分が浮いている証拠です。色が移らなくなるまで、もう一度乾燥させるか、余分なインクを拭き取ってからデビューさせてください。
防水スプレーでインクが溶けるトラブル

「せっかく綺麗に塗れたから、仕上げに防水スプレーをかけて完璧にガードしよう!」
その気持ちは痛いほど分かります。スニーカーケアの基本として「防水スプレー」は鉄則とされていますからね。しかし、油性ペンでカスタムや補修をした直後のスニーカーに関しては、この善意の行動が最大の悲劇を引き起こすトリガーになってしまうことがあります。
実は、「防水スプレーをかけたらインクが溶け出して、スニーカー全体がドロドロに滲んでしまった」という事故は、DIY初心者が最も陥りやすい落とし穴なのです。
なぜ防水スプレーでインクが溶けるのか?
理由は、防水スプレーに含まれている「石油系溶剤(ガスと一緒に噴射される液体成分)」にあります。
油性ペンのインクも、防水スプレーの溶剤も、化学的には同じ「油の仲間(親油性)」です。油汚れを落とすのにクレンジングオイルを使うのと同じ原理で、スプレーの溶剤がスニーカーにかかった瞬間、定着しかけていた油性インクを再び溶かして液体に戻してしまうのです。これを「再溶解」と呼びます。
特に危険なのは「補修用ペン(顔料)」
マッキー(染料)も多少滲むリスクはありますが、最も被害が深刻なのは、第3部で紹介した「黄ばみ隠しの補修ペン」や「ペイントマーカー」などの油性顔料インクを使った場合です。
顔料インクは樹脂で表面に固まっているだけなので、スプレーの溶剤がかかると樹脂が溶け、白い修正液のようなドロドロの液体となって流れ出します。これがソールからアッパー(布や革)に垂れてしまうと、拭き取ろうとすればするほど広がり、取り返しのつかない汚れとなってしまいます。
【警告】これだけは絶対に避けて! 「至近距離から」「ビショビショになるまで」スプレーを一気に吹きかける行為は自殺行為です。大量の溶剤がインクを直撃し、確実に溶け出します。
どうしてもスプレーしたい場合の「砂吹き」テクニック
基本的には、油性ペンで描いた箇所への防水スプレーは推奨しません。しかし、「どうしても防水したい」という場合は、リスクを承知の上で以下の手順(通称:砂吹き)を試してください。
- インクを塗ってから数日〜1週間置き、完全に硬化させる。
- スニーカーから30cm以上離す。
- スプレーを靴に直接向けず、空中に霧を噴射し、その「霧の中をスニーカーにくぐらせる」イメージで、極めて薄くふわっと付着させる。
- 一度で済ませようとせず、「薄くかけて乾燥」を数回繰り返す。
ただし、これでもインクの種類やスプレーの成分によっては滲む可能性があります。「迷ったらやらない」が、カスタムスニーカーを守る一番の安全策です。
油性ペンの代用になるおすすめアイテム
ここまでマッキーを中心にお話ししてきましたが、「もっと本格的にカスタムしたい」「絶対に色褪せさせたくない」「売り物のようなクオリティを出したい」という方には、ワンランク上の専門道具をおすすめします。
1. アクリルマーカー(布・革用) ポスカと同じような使い心地ですが、スニーカーカスタム専用に開発されたマーカーです。乾くと耐水性・耐光性が出るように設計されており、発色が良く、日光による色褪せにも強いため、長く愛用したいスニーカーにはこちらがベストです。
2. アンジェラスペイント(Angelus Paint) スニーカーカスタムの世界標準とも言える専用のアクリル塗料です。ペンではなく筆で塗るタイプですが、革の曲げ伸ばしにも追従し、ひび割れしにくい最強の耐久性を誇ります。プロのカスタマイザーが使っているのはほぼこれです。「本気でやりたい!」という方は、ぜひチェックしてみてください。
スニーカーを油性ペンで塗るメリットと注意点まとめ
スニーカーを油性ペンで塗ることは、身近な道具で手軽に個性を出せる楽しいDIYです。最後に、成功のためのポイントを振り返ります。
- カスタムならマッキー(染料)、補修なら専用ペン(顔料)と使い分ける。
- ポスカ(水性顔料)は水に弱いので実用靴には避ける。
- 布素材はにじみやすいので「布用ペン」が安心。
- 失敗した時の除去は「こすらず叩き出す」が基本。
- 仕上げの防水スプレーはインクが溶けるリスクを知った上で慎重に。
道具選びさえ間違えなければ、誰でも簡単に世界に一つだけのスニーカーを作ることができます。まずは目立たない場所から、少しずつチャレンジしてみてくださいね!

